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2016年11月28日 (月)

短編小説「諍い」5

 武夫の作る料理はプロ顔負けの味で色彩にも富んでいる。

 未だ小説が今みたいに売れていなかった頃には
 イタリアンレストランでバイトしていたので、得意なのはやっぱりイタリアンやけど。
 「さ、食べよか?」
 「・・うん、それよりさっき言いかけてたこと・・」
 「それは後や、食べる時は食べることに集中せなあかん」
 「・・・」
 武夫はそう言うたけど、言いかけて止められると
 それが気になって食べることに集中出来へん。
 武夫は小説書いてる人間やのに、そういうところがあんまりわかってない気がする。
 前に、私がその話をしたら
 「人はそれぞれやから」で片付けられてしまったけど。

 目の前の料理はイタリアンレストランで出されるみたいに綺麗で
 私はやってないけど、TwitterやFacebookで料理の写真をアップしてる人やったら
 すぐにスマホで写真撮ってしまうやろなあ・・と思う。
 パセリの葉陰に卵の黄身が覗いてる、
 サラダには武夫特製のエメラルドグリーンのドレッシング。
 「いただきます・・」
 そう言いながらフォークを手にしたら
 「はい、どうぞ」と武夫が答える。
 と、ここまではいつもと同じ、美味しい食事は私の心を和ませてくれた。
 結婚には三つの袋が大事です・・って結婚式のスピーチで何度も聞いたけど、
 ほんまやなあ・・と思う。特に胃袋は大事や。
 こうやって食べ物で釣られる自分も単純やけど、
 武夫の作戦はいつも的確やと思う。
 問題は食後のコーヒーを飲んでる時に起こった。
 「あのな、実はさっき言おうとしてたことなんやけど」
 思わず胸がドキンと鳴って私は身構えてしまった。
 「何?」
 決定的なことを言われるような気がして、さっきまで中途半端は嫌やと思ってたのに
 決定的なことを武夫の口から聞くのを怖がってる私がいた。

 「あのな、俺、ここと別に仕事場借りようと思うんや」
 「え?なんで?書斎あるやん?」
 「そうなんやけど、もうちょっと小説書くのに時間的にメリハリつけたいんや」
 「ここやと書かれへんの?」
 「そうやなくて、朝、ここを出て仕事場に行って書いて
 夕方帰ってくる生活がしたいんや」
 「私は昼間仕事で居てへんし、同じやないの?」
 「いや、そうやないけど、前はバイトしながら書いてたやろ?
  その時は早くずっと家で書ける生活したいって思ってたけど
  それなりに人とも関わって、そこからヒント得ることもあった。
  けど、今はずっと家に居て、たまに外で担当さんやら他の先生と会うだけやんか?
  何かで行き詰って書けん時には環境変えたり人と会うのもきっかけになるんや」
 「今。行き詰ってるの?
 「いや、今は違うけど、たまには一行も書けん時もある」
 「ふうん・・」
 「で、ここからそんなに遠くないところに仕事部屋借りよかと思って」

 またや。武夫はもう決めてるのに私が決めたように持って行こうとしてる。
 口調は柔らかいけど有無を言わせへん言い方や。
 私は半分泣きたいような、さっきの怒りが蘇るような気持ちになって
 半ば自棄気味に
 「武夫がそうしたいんやったら。そうしたらええやん」と答えた。

 「そうか、賛成してくれると思ったわ」
 子供のように無邪気に喜ぶ武夫を見て私は複雑な思いで
 つられて笑ってはみたんやけど。
                                         続く
 閑話休題(お知らせ)

 友人の墨絵師の江島恵さんが「墨絵日記3」と「墨絵日記4」を
 電子書籍で販売しています。
 墨絵師の日常、
 ある時は「わー」と叫びたくなる葛藤にもだえ苦しんだり
 ある時は哲学っぽいことをつぶやいてみたり、
 また、ある時は何の脈略もない言葉が頭に浮かんだり、
 彼女の書く墨絵日記を見ると
 芸術家というものはある意味、
 人間である以前にヘンな生き物であるような気がします。
 試し読みも出来ますので、覗いていただければ嬉しく思います。
 
                                         風 みどり
 

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