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2016年11月 9日 (水)

短編小説「諍い」2

 誰かが私の名前を呼んだ気がして振り返ったけれど

 そこには誰の姿もなく、伸び放題に伸びた叢があるだけだった。
 もしかしたら武夫が呼びに来てくれたんやないか・・という
 淡い期待を打ち砕かれて私はまた川に小石を投げ込んだ。
 小石はまたもや音もなく水の中に沈んでいく。

 武夫はこの川みたいな人や。
 私がいくら感情的になっても冷静沈着で私の怒りはその中に音もなく沈んでいく。
 相手も同じように感情的になってくれたら
 こんな中途半端な気持ちでいることはないんやないか、そう思った。
 前みたいに私の稼ぎで生活しているわけやないし、
 責任感の強い武夫のことやからちゃんと結婚しようと言うてもくれる。
 けど、それって愛情なん?ただの責任感からくる結婚なんやないん?
 私はそこに引っかかっているんやな・・と唐突に気がつく。

 別に高級レストランで指輪差し出されてプロポーズされたいわけやない。
 今流行りのフラッシュモブを使ったプロポーズなんか真っ平ごめんや。
 一回だけ、そのサプライズしてるとこに行ったことあるけど、
 なんか、こっちの方が恥ずかしくなってしまった。
 プロポーズされてる女の子を見たら感動してると言うよりもしらけた顔してたし。
 頼んだ男の方は女の子が喜ぶと思ってしたサプライズなんやろうけど
 きっと、あの女の子も私と同じようにそんなもんを望む子やなかったんやろ。
 やっぱり相手のことちゃんと知ってるようでもわからんことは仰山ある。
 五年付き合っても私には武夫のこと全部知ってるわけでも理解してるわけでもない。
 ただ、知りたいと思うし理解したいとはずっと思てるけど。
 何せ、小説家やから私みたいなOLとは考えが違うような気がする。

 今日みたいに私が一方的に悪態ついた時でも
 武夫は私が謝らんかってもきっと何もなかったふりが出来る人なんやと思う。
 そやから怒ってるのはいつも私の方で
 癇癪起こして突っかかって行くのも私ばっかりや。
 相手に非がないのに怒ってる私はアホみたいに思える。
 相手に非があったら、そこを突いて行ったらええけど
 ない場合はどうしたらええんや。喧嘩にもなれへん。
 結局、私ばっかりがアホみたいに騒いでる。

 そのことを前に会社の先輩の今日子さんに言うてみたら
 「あのな、経年劣化・・って言葉があるやろ?」
 「経年劣化?あの建物や機械や時間たったら劣化していく?」
 「うん、そう、その経年劣化や」
 「それが?」
 「人間関係もそうなんちゃうかなあ・・って私は思うねん」
 「.・・・・・」
 「時間が経って人との付き合いに慣れっこになってくると最初の気持ちは劣化していく」
 「ああ、なるほど・・」
 「そやから最初に感じた武夫さんに対する思いなんかは変わって行っても当たり前や」
 「うん。そうですね」
 「時間が経つと劣化はしていくけど、その分愛着も湧いてくる」
 「うん」
 「愛着が湧くから手放したくなくなる。けど人の気持ちは変わっていく」
 「そうですね。先輩の言う通りやわ」
 「けど相手の気持ちを都合よく変えるんはすごく難しい。
  自分を変える方が楽やで、ずっと」
 「わかります。自分でもようわからんけど、ずっとイラついてて・・」
 「それは、裕子ちゃんが武夫さんのこと未だ好きやって証拠やで」
 「そうでしょうか?」
 「そらそうやろ、そんなに感情的になるほど私は人を好きになったことないわ」
 
 今日子先輩の話を聞いた時に何となく納得はしたんやけど
 私は武夫に執着してるんやろか?
 自分の都合に合わせて武夫の気持ちを変えようとしてたんやろか?

 とにかく、私は最近自分の中途半端な気持ちに苛立って
 もう、いやや!こんなええ加減な気持ちでいるくらいやったら
 武夫と別れた方が楽になるんやないやろか・・って思っては
 ますます気持ちがささくれていってる。
 別れよう、もう別々に暮らそう・・と言うたら
 武夫は簡単に頷くかも知れんし、引き留めてくれるかも知れん。
 けれど、いつやってそうやったんやと私は気が付く
 決めるのはいつも私で、武夫は「うん、ええよ、裕子の好きにしたらええわ」
 そう言うだけやった。
 そんなん、ずるいわ。うまいこと行ったときはええけど
 失敗したら全部、私のせいになる。
 武夫は優しくて、そしてちょっとだけずるい。
 河原にあった流木に腰かけて私は長いことそんなことを考えていた。
 今年は秋がなくて夏から急に冬が来たけど
 十一月の初めやというのに川から吹いてくる風は真冬のように冷たい。
 日が少し傾きかけていて、どこかでカラスの鳴き声がする。
 「かあ、かあ」という声に何か馬鹿にされたような気がして
 私はようやく立ち上がった。
                                            続く
 
 

 

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