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2016年11月22日 (火)

短編小説「諍い」3

 武夫は冷静な人なんやと思う。

 元々、性差があるから女は論理的な思考が苦手や。そのくせ現実的なんは女の方やと思う。これは仕方がないことなんかも知れんけど、あまりにも相手がきちんとし過ぎてたら余計にかっか来てしまうのも仕方がないと思う。

 いつやったか、夕ご飯食べてる時に、何の拍子か知らん、スープの話になった。私はポタージュスープが好きで、武夫はコンソメスープが好き・・そんな他愛もない話してる時はよかったんやけど、ふと何かの本で読んだ「冷めるのは愛情とスープ」っていうフレーズが頭に浮かんでそれを口にしたら、武夫は真面目な顔で
 「そやけど、冷めたら、また温めたらええやん!」と、答えた。
 この人はそういう人なんやなあ、ってつくづく思った。何回でもやり直したらええ、そう考える人なんやな・・って思った。私みたいに100か0やなくて、一回躓いたら、もうええわ、って放り出してしまう人間とは違うんやな・・って。
 普段の武夫は無口で何考えてるかわからんとこあるけれど、心の穏やかな人。それに対して私は毎日のように感情を露わにしてしまってる。会社で気を遣ってる分、どうしても武夫に甘えてしまうんや。
 大学卒業して入社した時に先輩が
 「OLっていうのは編集の仕事するだけで長続きするもんやないんやで。誰とでも仲良くするのも仕事のうちや。ここにいる社員、十人十色、いろんな人がいてる。顔かたちが違うように生まれ育った環境も考え方もみんな違う。一日9時間も10時間も一緒にいることになるんや。大変やけど、頑張ろうなあ・・」
 それが先輩の今日子さんやった。
 ほんまにその通りや。人は生まれてくるときに親を選ばれへんように勤めたらそこの会社の人間関係も選ばれへん。苦手な上司や、意地悪な先輩やムカつく同僚なんかは会社についてくるもんやから選ぶことは出来ん。腹が立っても我慢しないとあかんこともあるし、自分の意見が正しいと思っていても引っ込めないとあかんこともある。先輩やった今日子さんは今は私の直属の上司になってるから気持ちは楽やけど、前の上司とはあんまりうまく関係は築けてなかった気がする。
 前の上司の頃は、未だ武夫もちゃんとした小説家として認められてなかった時やったから私は今よりも大変やったはずやのに、あの頃の方がずっと武夫に対して優しく出来ていた気がする。不思議や。会社で嫌なことがあっても帰って武夫の顔を見たら疲れが吹っ飛んでた。私の話を聞くだけで何かアドヴァイスするみたいなことは武夫はせえへんけど、心が落ち着いていた。
 最近、武夫は私の勤めてる会社やなくて他の出版社の依頼で長編小説を書いてる。書き上がるまで私にもその中身は教えてくれへんけど、帰って武夫の顔見ただけで、今日は筆が進んだな、とか、行き詰まってるな、とかはわかるようになった。
 私は自分でも気が付かんうちに武夫の顔色見るようになった。そして、そんな自分のことが嫌いやと思ってる。

 寒くなって来て、河川敷から街の方に歩き出す。自分の感情が抑えられんようになって飛び出して来たからバッグは持ってきたもののスマホを忘れて来てた。
 今は何時やろ?そう思いながら街を歩く。
 街には大勢の人が出ていて、忙しそうに足早に歩く中年男性もいれば、何事か笑いあいながら歩いてる女子高校生もいる。ハイヒールをカツカツ音を立ててあるく姿勢のいい女性もいれば、スーパーのレジ袋を両手に提げてそろそろ歩いているおばあちゃんもいる。この人たちは家に帰る途中なんやろな、そう思いながらふと空を見上げたら綺麗な三日月が浮かんでた。
 帰ろ、早く帰ろ。心の中でつぶやきながら私は元気よく歩き始めた。
                                             続く

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