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2016年11月24日 (木)

短編小説「諍い」4

 「ただいま」

 と、何事もなかったかのように家に入ると、キッチンの方で物音が聞こえた。
 廊下をそっと歩いてドアを開ける。
 武夫は流しの前にいてニンジンの皮を剝いていた。
 「あ、お帰り」
 武夫もさりげなく私の方をちらりと見てからまた手元のピューラーに目を落とした。
 「何、作ってんの?」
 気軽に声をかけようとしたけど何か喉に引っかかったみたいに出て来んかった。
 「久しぶりに本格的なイタリアン作ってみようかと思うてな」
 武夫が先回りして答えた。

 武夫はこうやって私の怒りを逸らせるのが上手や。
 さっき自分が大声で喚いたことに後ろめたさを感じさせるのも。
 いつだって正しいのは武夫で、間違ってるのは自分の方やという気にさせられる。
 「手伝おっか?」
 「うん。じゃあ、パスタ茹でてくれるか?サラダはもう出来て冷蔵庫の中や」
 「わかった・・」
 そう言いながら流しの方に回ったら
 三角コーナーの中に私の割ったマグカップが入っていた。
 「ごめん」
 大き目の寸胴鍋に水を入れながら武夫の方を見ずに言う。
 「うん?何が?」
 武夫はとぼけることにしたらしい。こういう風になかったことにできる人なんや。。
 そう思ったらなぜか涙が零れて来た。
 武夫に見られないように俯いたけど
 涙は自分が思ってた以上に大量でポタポタ落ちた。
 「どうしたん?」
 「どうもせえへん」
 「そうか・・」
 「うん」
 武夫は私に追求しない。
 なんで泣いてるのかも、私がどんなこと考えてるかも。
 けれど追及されないということは無関心ってことなんと違うやろか?
 と私は時々、思ってしまうんや。
 あんまり何もかも問いただされるのは嫌やけど、無関心はもっと嫌な気がする。
 好きの反対は嫌いやなくて無関心や。その言葉を私はいつも飲み込んでる。
 口に出した途端に自分が住んでるこの部屋が、
 前よりも快適なこの住処が音もなく崩れていくような気がして口に出されへん。
 「もう、お湯湧いたんと違う?」
 武夫の声で我に返り、急いでパスタを入れる。
 「あのな、裕子、ご飯食べたらちょっと話あるねん」
 武夫が突然そう言うたから私は悪い予感がした。
 ええ予感は当たれへんのに悪い予感が当たる気がするのは私の思い過ごしやろか?
                                          続く

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