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2016年10月11日 (火)

超短編小説「バッカス」

 いつも行く全国チェーンのドラッグストアの前には吸い殻入れがぽつんと置いてある。

 以前はその横に赤いペンキで塗られたベンチもあったのだが、
 今はステンレスで出来た筒状の吸い殻入れだけがある。
 そのベンチがなぜ撤去されることになったのか
 ドラッグストアの店員さんに訊いたわけではないが
 私には心当たりがある。
 一昨年の冬だっただろうか。
 私は店の前のベンチで二人の男性を見た。
 
 一人は相撲取りのような体型で赤ら顔、
 もう一人は枯れた枝のように細い小柄な男性で顔は青白い。
 まったくもって対照的な二人だったが、たった一つ共通点があった。

 それはかなり酔いが回っていることだった、
 二人は店の前にあるベンチに腰掛け酒を呑んでいるのだ。
 しかも一升瓶から紙コップに注いだ冷酒をぐいぐい呷っている。

 なんで?ここで?
 家で呑むと言うならば夕方未だ早い時間であってもいいが、
 こんなに人の大勢の集まる場所で二人はひたすら酒を呑んでいる。
 ドラッグストアに来た客たちはそれに気付いていないのか、
 それともヘンな人に関わり合いたくないのか誰もそちらを見ようとはしない。
 その日はそれだけだった。私はそそくさと猫の餌を買い家に帰った。

 それから二、三日過ぎて、その店にまた行った。
 誰も座っていないベンチを見て、ああ、今日はいないな、と思いながら
 店の中に入りペットフードコーナーに行き、目当てのものをかごに放り込み
 レジに並んだ。
 レジはそんなに混んでいなかったが、
 私の後ろに立っている男性に気が付き、思わず二度見をしてしまった。
 それはベンチに腰かけて酒を呑んでいたその人だった。
 見れば手には1.8ℓ入りの日本酒の紙パックを持っている。
 まさか、今日は家で呑むのだろう・・と思いながら外に出ると
 ベンチには痩せたもう一人の男性が紙コップを手に座っていた。
 その年の秋から冬の初めにかけて
 私はそのベンチで二人の姿を毎回のように目にした。
 飲むのは日本酒だけで、つまみもなにもなく
 何か騒ぐわけでも話さえすることなく二人は黙々と吞んでいた。

 あの時も二人の姿は他の人には見えず
 私の気のせいかとも思ったのだが、
 あのベンチが消えたところを見るとそうではないのだろう。
 もちろん誰かに確認したわけではないが。
 もしかしたら断酒をして何年にもなる私の前にバッカスが現れたのかもしれないと
 真剣に悩んだのだった。

 ちなみにベンチがなくなってから二人の姿を見かけたことはない。

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コメント

こんばんは☆
バリバリ警戒しています。
物理的には見えていてもかかわりたくないんです。

明らかにおかしな人間や酔っ払いとは目を合わせないよう、見ないようにするというのは自分の身を守るための最低限の知恵なのでは?

あまりにも無防備すぎる気がしますが、その年まで周りの大人が教えてくれたり、気が付いたりしなかったんですか?

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